研究デザインの選定/初心者が避けるべき落とし穴とは?【理学療法研究】

研究

 

研究デザインが決まらない。

とりあえずで決めればいいかな?

とりあえずで決めちゃダメだよ。

デザインがしっかりしてないと、手間と時間と費用がかかって意味のないものができるよ。

ランダム化っていうのをしないとバイアスが残るから意味ないって言われました。

ちゃんとデザインした研究ならランダム化してなくても大丈夫。

それよりも、研究デザインの落とし穴を避けることの方が大切だよ。

Introduction:

研究デザインがしっかり組み立てられていないと、臨床研究としての科学的価値がなくなってしまいます。そして研究としての意味がなくなるだけでなく、協力してくれた患者さんにも無駄な労力をかけただけになってしまうのです。

今回は、研究デザインの選定について詳しく解説していきます。この記事を読むことで、基本的な研究デザインの種類、避けるべき落とし穴とバイアスがわかります。

研究デザインは臨床研究の骨組み

研究デザインは臨床研究の骨組みといえます。研究初心者にとって研究デザインの選定は、臨床研究を進めていくうえで最初の関門となります。

研究デザインを良いものにするためには、臨床研究の「目的」と「方法」を明らかにすることが重要です。

臨床研究の目的は研究疑問(research question)を明らかにすることですが、「いつ・どこで・誰が・どのように行うかを具体的に示さなければなりません。

また、臨床研究の方法としては漠然としたものではなく、詳細に示さなければなりません。記載した方法どおりに行えば、他人でも同じように研究ができる再現性の高いものである必要性があります。

臨床研究は観察研究と介入研究の大きく分けて2種類

臨床研究は、介入の有無によって観察研究と介入研究の大きく2つに分けられます。

観察研究は介入を行わない研究デザイン

観察研究は言葉のとおり、研究対象者に対して介入は行ないません。

わかりやすくいうと、データを集めて解析するという研究デザインです。

例えば、ある病気のグループと健康な人のグループの経過を観察して比較したり、これまで行ってきた理学療法を振り返ってどうだったかなどをまとめたりします。

短時間でたくさんのデータを集められますが、バイアスが多くかかるのが問題点です。

介入研究は効果を検証する研究デザイン

一方、介入研究は研究対象者に介入や治療を行い、その効果を確かめる研究デザインです。

介入研究はランダム化比較試験(RCT)・準ランダム化比較試験・クロスオーバー比較試験などに分けられます。

RCTは介入研究の中でもエビデンスレベルが高く、多くのバイアスを除去できます。

研究デザイン選定時の落とし穴を避ける

研究デザインの決定時に最も注意しなければならないことは、研究の落とし穴を避けることです。落とし穴に落ちてしまうと、統計解析上でも修正できない致命傷を負います。

そして、落とし穴の多くは研究デザインの選定時に潜んでいます。

落とし穴に落ちている研究は、学会論文投稿しても査読の段階ですぐにリジェクトされてしまいます。

では、落ちやすい落とし穴はどこに潜んでいるのでしょうか?下記にその例を挙げます。

・そもそも比較対象がない(前後の各1時点での比較)
・介入群と対照群で、
研究デザインが違う
研究を行なった時期が違う
組み入れ基準が違う
研究を行なった場所が違う

これらの落とし穴を避けなければならないかというと、統計解析では修正できないバイアスを発生させるからです。

特に注意すべきは、単群の前後比較研究です。多くの人が一度はやったことがあるかもしれません。私も最初の介入研究は前後比較デザインで、落とし穴に落ちた一人です。

これらは致命的であるため、研究デザイン設定の際に絶対に避けましょう。反対に、これらを避けさえすれば論文化までたどり着けるということです。

バイアスってなに?

ここまで「バイアス」という言葉を何回か使ってきましたが、難しい単語でよくわかりませんよね。バイアスは「系統誤差」もしくは「偏り」と言い換えられます。

バイアスは意識的または無意識的な行為によって生じ、統計処理を行なったり、サンプル数を増やしたりしても取り除けないものです。したがって、バイアスのたくさんある研究は誤った結論になっている可能性があります。

バイアスは選択バイアス・情報バイアス・交絡バイアスの3つに分けられます。

選択バイアスは研究デザインの選定時に発生する

選択バイアスは、研究対象者を選ぶ際に生じます。

例えば、健常な20代にある特別な靴を履いてもらい、下肢筋電図を測定するとします。もしあなたが大学生なら、研究対象者に誰を選ぶでしょうか?おそらく大学の同級生を選びますよね。研究としては「健常な20代」を対象としているのに、いつの間にか「同じ大学に通っている健常な20代」を選択してしまっています。しかも、その中には男性と女性が混ざっており、身長や体重、足の長さ、歩行速度などさまざまな人がまぎれ込んでいます。

この世界に健常な20代はたくさんいるのに、無意識のうちに偏ったグループを選んでしまうのです。これを選択バイアスといいます。

選択バイアスを取り除くには、できるだけ偏りのないように研究対象者を選びましょう。例えば、違う大学の学生も被験者に募ってみたり、研究脱落者が出ないようにするなどの工夫も選択バイアスを回避することにつながります。

情報バイアスは評価・検査時に発生する

情報バイアスとは、データを取る際に先入観や期待などで生じてしまうバイアスです。

研究者と患者さんの関係でよくあることですが、何らかの介入や評価を行うときに研究者が良いデータを取ろうとしたり、患者さん側も期待に応えようと頑張ったりします。これだけで研究結果は変わってきてしまいます。

情報バイアスは情報収集のときに生じるので、研究者は面接・評価・測定手順を細かく記したマニュアルを作成し、それに忠実にしたがうなどの工夫が必要です。

また、研究対象者・研究者・測定者が研究内容を知らない状態にする盲検化(blinding)という手法も使われます。盲検化は情報バイアスをできる限り小さくできるので、RCTでもよく使われる手法です。

交絡バイアスは統計解析時に発生する

交絡バイアスとは、原因と結果の背後に隠れている要因のことをいいます。

例えば、ライターを持っているグループと持っていないグループを比較したとき、肺がんの確率が高いのはライターを持っているグループだと容易に想像できます。しかし、その背景にはタバコを吸っているかどうかという交絡因子が存在します。これを交絡バイアスと呼びます。

交絡バイアスはRCTでかなり回避できるといわれています。その他にも、交絡バイアスは限定化やマッチングという手法でもコントロールできます。

RCTでなくても質の高い研究はできる

臨床研究で大切なのは、研究デザインの特性を理解し、できるだけバイアスを取り除いていくことです。しかし、人が人を対象として研究していくので、この世に完璧な研究は存在しません。

RCTはこれらのバイアスを除去しやすい研究デザインであるため、高いエビデンスレベルとされています。しかし、RCTはたくさんの患者さんに協力してもらう必要があり、研究費用も高くつくので、研究初心者にはハードルが高い研究デザインです。

そういった場合、研究初心者は観察研究・準ランダム化比較試験などからはじめてみるのも良いでしょう。適切にバイアスをコントロールすれば、RCTや盲検化にこだわらなくてもある程度質の高い研究はできるのです。

研究デザイン選定時の悩みや経験

ここでは私の卒業研究での経験を例にあげたいと思います。

ある企業が開発した坂道シューズ(前足部が補高されており、坂道を登るような歩行感覚が得られる靴)の効果を検証する研究を行なっていました。

その当時は選択バイアスを知らなかったため、友人全員に声をかけて実験を行なっていました。男性も女性も混ぜこぜで、下肢筋活動やエネルギー消費量を計測していきました。

また、企業の期待に応えないといけないという思いから、坂道シューズのときはかなり力強く被験者に説明してしまいました。

つまり、この研究は最初の段階では、選択バイアスと情報バイアスがたくさんかかっていたということになります。私も知らずに落とし穴に落ちていました。

もちろん信ぴょう性のあるデータが得られるわけもなく、もう一度、最初からやり直すことにしました。

やり直す際には指導教官にアドバイスをもらい、研究対象者を男性だけに絞ったり、マニュアルを作成して被験者への説明を統一したりというバイアスを取り除くための工夫を凝らしました。

その結果、適切なデザインであることが評価され大学から優秀賞をいただくことができました。バイアスを取り除くことの重要性や、RCTや盲検化にこだわらなくても程度質の高い研究はできるのだなということも実感した記憶があります。

Conclusion

研究デザインの選定は臨床研究の骨組みのようなもので、重要な過程です。臨床研究は、RCTや盲検化などをするのがベストでした。

しかし、人的コストや金銭的コストなどから研究初心者にはハードルが高い手法です。研究デザイン選定のうえでは、自身の研究の限界を把握し、できるだけバイアスを取り除こうとする姿勢が大切になります。

その姿勢があれば、RCTや盲検化にこだわらなくても質の高い研究はできます。研究デザインの重要性をしっかり把握し、より良い研究を行なっていきましょう。

しっかりバイアスをコントロール→質の高い研究になる

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