Introduction
みなさんが論文を読むとき、1番気になるのは何でしょうか?
「研究を通してどのような結果(アウトカム)が得られたのか」が1番知りたいことですよね。
研究者の立場になってみても、このアウトカムの設定は重要です。
アウトカムがしっかりしていないと自分の研究疑問を解決できませんし、何のために臨床研究をしているのかがわからなくなってしまうのです。
そこで今回は、アウトカムの設定について詳しく解説していきます。
この記事を読み終えるころには、アウトカムの設定についてかなり詳しく把握できます。
アウトカムとは、研究の結果や成果
臨床研究では、障害や疾病の発症・治癒・入院・退院・予後・死亡などがアウトカムとして設定されることが多いです。
理学療法研究では歩行や日常生活の自立度・転倒などもアウトカムとして設定されます。
また、アウトカムと同じような意味でエンドポイントという言葉もあります。
エンドポイントとは、アウトカムを判定する具体的な指標のことです。
たとえば、歩行の自立度をアウトカムに設定したうえで歩行練習の効果を明らかにしたいとなったとき、エンドポイントには歩行速度・歩容・歩幅・痛み・歩きやすさ・運動耐用能・FIMの点数などがあげられます。
実際の臨床研究でこれら全てを評価するのは難しいので、いくつかのエンドポイントを選んでデータを取っていくことになります。
真のエンドポイントと代用エンドポイント
エンドポイントについてもう少し詳しく解説していきます。
アウトカムを構成するエンドポイントですが、真のエンドポイントと代用エンドポイントという大きく2つに分けられます。
真のエンドポイントとは、研究のアウトカムに迫る指標
真のエンドポイントとは、研究のアウトカムに迫る指標のことです。
たとえば、転倒予防を目的として理学療法介入を行う臨床研究の場合、真のエンドポイントは「退院後の転倒発生率」になります。
真のエンドポイントは測定するのに手間や時間がかかり、介入によって大きな変化が得られにくいのが特徴です。
代用エンドポイントとは、真のエンドポイントに関わる指標
代用エンドポイントは真のエンドポイントに関わる指標です。
先ほどと同じように転倒予防を目的として理学療法介入を行う臨床研究の場合を例にあげると、代用エンドポイントは「バランス能力の指標である片脚立位時間・FRT・TUG・BBSなど」があげられます。
代用エンドポイントは測定が簡単で、介入によって変化が現れやすいのが特徴です。
しかし、代用エンドポイントが改善したからといって真のエンドポイントが改善するとは限りません。
どうやってエンドポイントを決めればいいの?
では、どのようにしてエンドポイントを選んでいけばよいのでしょうか?ここでは、主要評価項目・副次評価項目について解説していきます。
主要評価項目(Primary Endpoint)は1つだけに絞る
主要評価項目は、研究者が最も明らかにしたいエンドポイントのことです。
研究開始前に1つだけ決めておく項目でもあります。いろいろ悩む気持ちもわかりますが、1つだけ!
主要評価項目には、研究者・研究対象者ともに主観が入らないような、正確かつ再現性の高いものを選びましょう。
信頼性・妥当性のある研究にするためにも、その領域ですでに確立された項目、先行研究ですでに使用されている項目を選ぶ必要があります。
具体的には、歩行なら10m歩行速度・6分間歩行テスト、痛みの程度ならVAS・NRS、バランス能力なら片脚立位時間・FRT・TUG・BBSなどがあげられます。
研究疑問に最も答えられるような項目を選びましょう。
副次評価項目(Secondary Endpoint )は主要評価項目をサポートする項目
副次評価項目は、主要評価項目をサポートする捕捉的な項目です。
こちらも信頼性・妥当性が確立している必要があります。
主要評価項目の下位因子や説明項目として測定することもありますし、実験や研究の流れでおのずと評価しなければならない項目もあります。
副次評価項目は1つに絞る必要はありませんが、多ければ多いほど評価項目が増えることになります。
研究対象者の負担を減らすためにも、多くの項目を入れすぎないようにしましょう。
アウトカムの設定に悩んだ体験談
私はある企業が開発した坂道シューズ(前足部が補高されており、坂道を登るような歩行感覚が得られる靴)の効果を検証する研究を行なっていました。
PICOに当てはめて説明すると、
I:坂道シューズと
C:通常シューズを履いて歩いてもらったときに
O:エネルギー消費量や下肢筋電図はどう変化するのか
といった研究疑問になります。
主要評価項目は、エネルギー消費量としていました。
なぜこの項目にしたのかというと理由が2つあります。
1つ目は、企業側から求められていたためです。企業側からエネルギー消費量と下肢筋電図のデータが欲しいといわれたため、主要評価項目に設定しました。この研究のゴールとしても面白いと感じていました。
2つ目の理由は、先行研究によって信頼性と妥当性が確証されていたからです。文献検索の段階で、エネルギー消費量には正確性と再現性があることがわかっていたため、安心して主要評価項目に設定できました。
この研究では他にも、歩行速度や歩幅、歩数などの副次評価項目も測定していました。
なぜなら、トレッドミルなどの実験器具の設定などで必要だったからです。
主要評価項目ではなかったのですが、坂道シューズを履くと歩行速度が落ちたり、歩幅が減ったりするなどの新しい発見もありました。
研究ではエンドポイントをできるだけ絞った方がいいといわれていますが、主要評価項目以外に測定せざるを得ないデータもありますし、そこから新たな発見があるかもしれません。
Conclusion
アウトカムの設定についてまとめていきました。
アウトカムを適切に設定できないと、自分の研究疑問が解決できませんし、何のために臨床研究をしているのかが曖昧になってしまいます。
エンドポイントをきちんと理解し、主要評価項目と副次評価項目を適切に選んで研究を行なっていきましょう。
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