観察研究ってどんな研究?/初心者は後ろ向きコホートから取り組もう【理学療法研究】

研究

Introduction

観察研究は言葉のとおり、研究対象者に対して介入を行なわない研究手法で、データを集めて解析するという研究デザインになります。

短時間でたくさんのデータを集められますが、バイアスが多くかかるのが問題点です。

一方で、ランダム化比較試験(RCT)は多くのバイアスを除去でき、エビデンスレベルの高い研究です。しかし、RCTはたくさんの患者さんに協力してもらう必要があり、研究費用も高くつくので、研究初心者にはハードルが高い研究デザインです。

研究初心者の場合は、観察研究からはじめてみるのが良いでしょう。

観察研究でもきちんとデータを集めて比較対照を明確にしていけば、質の高い臨床研究ができます。今回は観察研究についてまとめていきます。この記事を読むことで、観察研究の概要やメリット・デメリットなどが理解できます。

観察研究とは、研究対象者の状態をそのまま観察する研究

観察研究(observational study)は、研究対象者の状態をそのまま観察する研究です。研究対象者に対して人為的あるいは能動的な介入・治療は行いません。

その場で起こっていることや起きたこと、またはこれから起こることをあるがままにただ見ていくという研究手法です。

観察研究は研究を行う時点や期間から、ある時点での状態のみを観察する横断研究(cross sectional study)と、ある期間にわたって観察していく縦断研究(longitudinal study)に分けられます。

また、縦断研究は過去のデータを分析する後ろ向き観察研究(retrospective study)と、これから生じる現象を分析する前向き観察研究(prospective study)に分けられます。

観察研究はPECOで記載できる研究疑問の解決に向いています。

たとえば、ある病気のグループと健康な人のグループの経過を観察して比較できたり、これまで行ってきた理学療法を振り返って障害の改善率や予測因子、アウトカムの因果関係がどうだったかなどを明らかにしたりできます。

観察研究の3つの型

観察研究の種類について解説していきます。観察研究には大きく分けて「横断研究」「前向きコホート研究」「後ろ向きコホート研究」の3つがあります。ひとつひとつ解説していきましょう。

横断研究は、一つの時点での関連性をみる手法

横断研究とは、ある時間軸に着目してそのときの状態のみを観察していく研究手法です。

たとえば、患者さんの退院時のFIMスコアや歩行速度などをデータとして集め、それぞれの関連性を確認していきます。

メリット

追跡調査をする必要がなくデータ収集に時間がかからない
費用が安く済むこと

デメリット

因果関係は明らかにできないこと
物事には時間の流れとともにまず原因があって、その後に結果があります。横断研究は時間の流れは観察できないので、因果関係は分からず考えられるさまざまな要因に対して「関連性がある」とまでしか言えません。

後ろ向きコホート研究は、過去から現在に向かって観察する手法

後ろ向きコホート研究とは、過去のある時点軸から現在に向かって経過を観察していく研究手法です。

たとえば、すでに病気になった研究対象者を、研究者が過去のある時点から前向きに(まぎらわしい!)追跡調査をしていき、その病気と因果関係のある要因を探していきます。

メリット

効率が良く費用も安く済むこと
カルテなどからデータを集めるだけなので時間がかからずお金も少なくて済みます。
原因と結果の因果関係を明らかにできる

デメリット

バイアスの把握が困難なこと
データが研究目的で収集されていないので、バイアスが多くかかっている可能性があります。

前向きコホート研究は、現在から未来に向かって観察する手法

前向きコホート研究とは、研究対象者のグループ(コホート)をある一定期間にわたり経過を観察していく研究手法で、コホート研究とも呼ばれます。

たとえば、ある病気のグループと健康な人のグループの経過を観察してデータを比較していくことです。

メリット

時間の流れに沿うため原因と結果の因果関係を明らかにできること
また、後ろ向き観察研究で生じるさまざまなバイアスを回避できる

デメリット

長期間にわたってグループを追跡調査していくため、膨大な時間と費用がかかる
研究対象者が途中で脱落する可能性もある
予測していなかった因子が途中でバイアスだとわかった場合、せっかく追跡してきたデータが意味を持たなくなってしまう場合もある

完璧な研究よりもエビデンスを一つずつ積み上げる

ここまで観察研究についてまとめていきましたが、研究初心者の方にはまず後ろ向き観察研究をおすすめします。研究初心者の方に後ろ向き観察研究がおすすめな理由は、以下の7つになります。

  • 既にカルテに情報がある
  • 患者さんへの負担が少ない
  • 研究リスクが少ない
  • お金が少なくて済む
  • 理学療法の有用性も確認できる
  • 診断や予後などの臨床疑問の解決に役立つ
  • 統計処理でバイアスを調整する練習になる

まずは前向き介入研究よりも、カルテなど既にある情報からデータを集める後ろ向き観察研究からはじめて、こつこつエビデンスを積み上げていく練習をしましょう。

前向き介入研究であっても、比較対照がない場合は科学的な質が低い研究になってしまいます。

後ろ向き観察研究でもしっかりデータを集めて比較対照群を設ければ、十分質の高い研究はできます。

後ろ向き観察研究に慣れ、統計処理やバイアス調整もできてきたら、次のステップとして前向き研究や介入研究に挑戦してみましょう。

Conclusion

観察研究は研究対象者に対して介入を行なわない研究手法で、データを集めて解析するという研究デザインです。

観察研究には、「横断研究」「前向き観察研究」「後ろ向き観察研究」の3つがあり、研究初心者には後ろ向き観察研究がおすすめです。

後ろ向き観察研究でもしっかりデータを集めて比較対照を設ければ、十分質の高い研究はできます。まずは後ろ向き観察研究でこつこつエビデンスを積み上げていきましょう。

初心者は後ろ向きコホートから→コツコツとエビデンスを積み上げよう

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