Introduction
「介入と侵襲の違いが理解できない」
「自分の臨床研究が侵襲に該当するのかどうかよくわからない」
こんなお悩みをお持ちではありませんか?臨床研究では「介入」と「侵襲」という2つの言葉が頻回に登場します。介入と侵襲には、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に基づいて明確な違いが定義されているのですが、なかなか理解しづらい部分ですよね。また、新しい倫理方針では「軽微な侵襲」という言葉も出てきており、ますます理解しづらくなってきています。
そこで今回は、「介入」「軽微な侵襲」「侵襲」の3つの用語について、理学療法研究分野での例もあげながら詳しく解説していきます。特に、侵襲の有無によってはインフォームドコンセントや倫理審査など臨床研究における必要な手続きも違ってくるので、この際にしっかり把握しておきましょう。
臨床研究における「介入」
臨床研究における介入とは、研究目的で研究対象者の行動・傷病の予防・検査・服薬・手術などの有無や程度を意図的に変化させるまたは変化させないようにすることを指します。言い換えるならば、理学療法の方法・運動負荷量・生活指導など、研究対象者の健康に影響を与える要因を変化させることを介入といいます。
なお、通常の理学療法を行った場合の転機や予後などをみていく観察研究は、介入にはなりません。リハビリ研究分野における介入には、以下のようなものが該当しますので、参考にしてみてください。
- 超音波治療による疼痛軽減効果を確かめるために、コントロール群と超音波治療群を設けてVASの変化を比較する。
- 介助歩行ロボットの歩行練習効果を確かめるために、介入前後で歩行速度を測定する。
以下は介入に該当しない例です。
- 通常の理学療法を行った研究対象者の入院時FIMと退院時FIMを比較し、理学療法の有用性を検討する。
- 稀な症例について理学療法経過をまとめて症例報告する。
臨床研究における「侵襲」
臨床研究における侵襲とは、研究目的で研究対象者に穿刺・切開・服薬・放射線被ばく・心的外傷に触れる質問など身体または精神に傷害や負担がかかることを指します。
理学療法分野では、運動負荷試験や物理療法も研究対象者に少なからず負担がかかるため「侵襲あり」と判断されます。
リハビリ研究分野における侵襲には、以下のようなものが該当しますので、参考にしてみてください。
- 脳卒中を患った方への早期立位練習の効果を確かめるため、通常のプロトコルよりも早期に立位練習を開始する。
- 変形性膝関節症を患った方に対して経皮的電気治療を行い、疼痛軽減効果をVASで評価する。
- COPDを患った方にトレッドミル上で運動負荷試験をしてもらい、最高酸素摂取量を測定する。
臨床研究における「軽微な侵襲」
臨床研究における軽微な侵襲とは、その名の通り研究対象者に比較的軽くて小さな侵襲を与えることを指します。しかし、この軽微な侵襲というのは曖昧な部分もあり、研究対象者が健常者であるまたは高齢者や何らかの疾患を持っている方か否かによっても変わってくるのです。
たとえば、10m歩行テストをするにしても、健常者と著しく体力の低下した高齢者では負荷量が異なります。いずれにせよ、最終的には倫理審査委員会によって「軽微な侵襲」に該当するかどうかが決定されますので、その指示にしたがいましょう。
参考として、リハビリ研究分野における軽微な侵襲に該当するものを以下に示します。
- 運動イメージのときの脳活動を明らかにするために、健常者を対象としてMRIを用いて実験する。
- 脳卒中を患った方に対して、退院後の生活と家族関係を調査するためにアンケートを郵送して答えてもらう。
- 軽症の変形性膝関節症を患った方に対して、ハンドヘルドメーターで膝伸展筋力を測定し、10m歩行速度も測定したうえで2つの関係性を調査する。
介入ありと侵襲ありの時はモニタリングと監査が必要
自分の臨床研究が「介入あり」で「侵襲あり(軽微な侵襲を除く)」に該当するとき、モニタリングと監査が必要になります。これは新しい倫理指針で決定されたもので、研究の信頼性と安全性を確保するために行われます。
モニタリングとは、臨床研究が研究計画書通りに適正に行われているかどうかについて、研究責任者が特定の人物に行わせる調査のことです。また、監査という言葉もモニタリングとほぼ同じ意味です。しかし、監査にはモニタリングと違って抜き取り調査的な意味合いが込められています。監査の必要性は倫理審査委員会で決定されるので、その指示を仰ぎましょう。
Conclusion
「介入」「軽微な侵襲」「侵襲」について詳しく解説してきました。理学療法における例もご紹介したので、より理解が深まったのではないでしょうか。
特に、自分の臨床研究に侵襲があるかないかの判断は重要です。なぜなら、侵襲がある場合はモニタリングや監査が必要となるからです。もし侵襲がある場合は、必要に応じてモニタリングや監査を受けるようにしてください。
とは言いつつも、「介入」「軽微な侵襲」「侵襲」の違いを把握することは重要ですが、最終的に自分の臨床研究がどれに該当するかは倫理審査委員会が判断します。倫理審査委員会の判断や指示にしたがって臨床研究を進めるようにしましょう。