介入研究をしたいけどどんなデザインがあるの?
介入研究の種類は
- RCT
- 非ランダム化比較試験
- クロスオーバー比較試験
の3つだよ
前後比較試験も介入研究じゃないんですか?
前後比較試験は科学性が保証できないからやめといたほうがいいよ
質の高い観察研究の方がエビデンスレベルも高いしね
この記事では介入研究の3つのデザインをメリットデメリットを含めて解説します。
Introduction
みなさんが普段行なっている理学療法によって、患者さんの状態は徐々に改善していきます。
なぜ患者さんが理学療法によって改善していくのかというと、その理学療法に科学的根拠があるからです。このように、科学的根拠に基づいた理学療法をEBPT(Evidence Based Physical Therapy)といいます。
EBPTを行なっていくうえではエビデンスの構築が必要ですが、理学療法のエビデンスはまだ十分とはいえません。
まだまだ不足している理学療法のエビデンスは、介入研究によってその効果を証明していく必要があります。
介入研究を行うことが理学療法の発展につながり、患者さんの回復へとつながっていきます。
社会貢献を果たすためにも、介入研究によって理学療法のエビデンスを構築していくことは、研究者としての使命ともいえるのです。
今回は、そんな介入研究について詳しく解説していきます。
この記事を読むことで、介入研究の概要や種類、メリット・デメリットなどがわかります。
介入研究は、介入や治療の効果を確かめる研究デザイン
介入研究(intervention study)は、研究対象者に介入や治療を行い、その効果を確かめる研究デザインです。
介入研究は実験的研究とも呼ばれており、基本的には前向き研究です。
介入研究は、介入群のみを設定して介入前後の状態を比較する前後比較試験(uncontrolled study)と、介入群とコントロール群の2つを設定してそれぞれの介入前後を比較する比較対照試験(controlled study)に大きく分けられます。
介入研究はPICOで記載できる研究疑問の解決に向いています。
例えば、リハビリのグループを2つに分けて通常の歩行練習をする群とロボットを用いた歩行練習をする群での歩行自立度や歩行速度の改善率を比較できます。
介入研究のメリットは
デメリットは
もちろん、何でもかんでも思いついた好きな介入を患者さんに施して良いわけではありません。
介入研究で行う介入は、シングルケーススタディや観察研究で有効性が確認されていることが前提になってきます。
介入研究の3種類を把握する
介入研究は、前後比較試験を除けば
- RCT
- 非ランダム化比較試験
- クロスオーバー比較試験
の3つに分けられます。
この3つの研究デザインについてひとつひとつ詳しく見ていきましょう。
RCTは、最も根拠の質の高い一次研究
RCTは、介入の有無以外の背景因子をすべて差がないように研究対象者をグループ分けし、介入の効果を検証する研究デザインです。
グループ分けの段階で厳密にランダム化を行なっていきます。ランダム化にはいくつかの方法があるのですが、単純ランダム化と層別ランダム化の2つがあります。
ランダム化する前に年齢や性別、疾患など両グループで偏りを生じさせたくない因子を把握しておき、そこからランダム化する手法です。
層別ランダム化では属性に偏りができないので、均等にグループ分けできます。
RCTのメリット・デメリット
メリット
デメリット
非ランダム化比較試験は、ランダム化を行わない介入研究
非ランダム化比較試験は名前の通り、ランダム化を行わない研究デザインです。
群分けは、くじ引きやコインの裏表、カルテの番号、入院した時期などで分けていきます。
非ランダム化試験のメリット・デメリット
メリット
デメリット
クロスオーバー比較試験では、介入群と対照群が入れ替わる
クロスオーバー比較試験とは、研究対象者を介入グループと対照グループの2群に分けて介入を行った後、いったん介入を中止し、その後介入の有無を交換して再度介入して経過を見ていく研究デザインです。
たとえば介入Aと介入Bがあった場合、AからBの順番で治療を受けるグループと、BからAの順番で治療を受けるグループに分けられます。
いったん介入を中止する段階では、先に行った介入の影響(持ち越し効果)がなくなるまで、十分な期間(ウォッシュアウト期間)が必要です。
クロスオーバー比較試験のメリット・デメリット
メリット
デメリット
前後比較試験は、絶対に避けるべき研究デザイン
前後比較試験は、介入群のみを設定して介入前後の状態を比較する研究デザインで、個人差などの誤差が生じないのがメリットです。
前後比較試験は研究初心者が手を出しやすい研究デザインですが、絶対に避けるべきです。
なぜなら、前後比較試験には科学性がないためです。
前後比較試験のエビデンスレベルはほぼありません。
介入群との比較対照がないため、自然経過で治ったのかあるいは理学療法のおかげで治ったのかはっきりわかりません。
前後比較試験には以下のようなたくさんのバイアスが潜んでいます。
- 研究対象者の自然治癒力
- 研究対象者の主観
- 研究対象者への同意の取り方
- 研究対象者の組み入れ除外基準
- 研究者の主観
- 理学療法現場の環境
- データを収集するタイミング
これらを取り除くためにも、対照群との比較は絶対に必要なのです。前後比較試験は臨床研究としての科学的価値がなく、協力してくれる患者さんにも無駄な労力をかけただけになってしまうので、絶対に避けましょう。
介入研究の体験談
私はある企業が開発した坂道シューズ(前足部が補高されており、坂道を登るような歩行感覚が得られる靴)の効果を検証する研究を行なっていました。
アウトカムはエネルギー消費量と下肢筋電図です。
PICOに当てはめて説明すると、
I:坂道シューズと
C:通常シューズを履いて歩いてもらったときに
O:エネルギー消費量や下肢筋電図はどう変化するのか
といった研究疑問になります。
方法としては、トレッドミル上で数分間歩いてもらってデータを取りました。研究デザインとしてはクロスオーバー比較試験です。
ランダム化比較試験でも行えた実験ですが、個人差などの誤差を取り除くために、クロスオーバー比較試験を選択しました。
まずは研究対象者を2グループに分け、一方は「通常シューズでの介入」から「坂道シューズでの介入」、一方は「坂道シューズでの介入」から「通常シューズでの介入」でデータを測定しました。
実験中にシューズを履き替える際には、履き替えてすぐに次の実験に行くのではなく、エネルギー消費量が安静時の数値になるまで十分な休息時間を設けました。
これは持ち越し効果をなくすためのウォッシュアウト期間です。このような工夫をしながらクロスオーバー比較試験で研究を行なっていきました。
結果としては「坂道シューズを履いただけではエネルギー消費量や下肢筋電図は増加しない」ことがわかりました。
ネガティブデータにはなりましたが、きちんと比較対照(この研究では通常シューズでの介入)を設ければ、ある程度科学性のある研究ができるんだということを学びました。
Conclusion
介入研究は研究対象者に介入や治療を行い、その効果を確かめる研究デザインです。
介入研究には、「RCT」「非ランダム化比較試験」「クロスオーバー比較試験」の3つがあります。介入研究は初心者にとってはハードルが高い研究デザインかもしれませんが、理学療法のエビデンスを構築していくうえでは非常に大切です。
介入研究を行うことが理学療法の発展につながり、患者さんの回復へとつながっていきます。この記事がみなさんの介入研究を一押ししてくれれば幸いです。
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