研究対象者を守るために想定しておかなければいけないこと

研究

Introduction

臨床研究、特に介入研究は少なからず患者さんに何らかの負担を与えます。したがって、介入研究は万全の安全体制を構築して実行されなければなりません。しかしながら、100%安全な臨床研究は存在しないことも事実です。万全の体制を取りつつも、さまざまな想定をしておく必要があります。当記事では、臨床研究において研究対象者を守るために想定しておかなければならないことをお伝えしていきます。

研究者が想定すべき5つの項目

研究者が臨床研究を立案するときには、研究がうまく行っているときだけでなく、不慮の事態への想定もしておかなければなりません。倫理員会に提出する研究計画書にも、これら不慮の事態への対応は記載しておく必要があります。これもすべて、研究対象者を守るためです。研究者が研究対象者を守るために想定しておかなければならないことは、以下の5つになります。

  • 被験者に予想される利益・不利益
  • 中止基準
  • 有害事象発生時の対応
  • 研究の終了・中止・中断
  • 費用負担と健康被害の保証

この5つの項目について、ひとつひとつ詳しく解説していきます。

各項目の記載例

各項目の記載を企業が開発したシューズの効果検証をした研究を例に説明します。PICOに当てはめると、

P:健常な大学生20名に
I:坂道シューズと
C:通常シューズを履いて歩いてもらったときに
O:エネルギー消費量や下肢筋電図はどう変化するのか

といった研究疑問になります。実験としては、それぞれの靴を履いてトレッドミル上を歩いてもらう方法でした。

被験者に予想される利益・不利益

研究対象者に予想される利益・不利益では、研究対象者が研究に参加する場合にどのような利益が得られるのか、またはどのような不利益をこうむる可能性があるのかを記載します。なお、どのようにして不利益を最小限にするのかも記載します。

計画書への記載例

研究対象者がこの研究に参加することによって、自分の歩行速度やエネルギー消費量、下肢の最大筋活動量などを知ることができ、企業から謝礼も受け取れる。

なお、この研究ではトレッドミル歩行をしてもらうので、転倒などの危険性がある。また、履き慣れないシューズを身に着けて歩行してもらうので、靴擦れなどの傷害を引き起こす可能性も充分に考えられる。トレッドミル上でのテスト歩行、靴下の着用などで起こると考えられる不利益を最小限にとどめるように努める。

中止基準

ここでいう中止基準とは、1人1人の実験段階での中止基準をいいます。どのようなことが起こった場合に実験を中止するのかを具体的に列挙していきます。基本的には、適格条件を満たさなかった場合、同意が撤回された場合、持病の増悪が認められた場合、介入による合併症が生じた場合、その他有害事象によって実験の継続が難しいと判断した場合、医師が実験を中止する方が良いと判断した場合などがあげられます。

計画書への記載例

実験の実施中に、中止基準に至る事象が発生した場合はすぐさま実験を中止する。中止基準としては、研究対象者が同意を撤回した場合、体調が悪化した場合、傷害が生じた場合などがあげられる。

有害事象発生時の対応

有害事象発生時の対応も研究計画書に記載しておかなければなりません。最も大切なのは、研究対象者の安全確保です。すぐさま研究対象者の有害事象に対してしかるべき処置を行い、カルテなどに正確に記録することを記載しておきます。また、長期の治療・障害の残存・死亡などの重篤な有害事象の報告についても記載が必要です。

計画書への記載例

実験中に有害事象が発生した場合、すぐさま研究対象者に対して適切な処置を行い、記録をきちんととっておく。また、長期の治療・障害の残存・死亡などの重篤な有害事象が生じても最後まで適切な対処を行い、大学への報告の義務を遂行する。

研究の終了・中止・中断

ここでいう研究の終了・中止・中断とは、1人1人の実験ではなく臨床研究全体の中止を指します。臨床研究は、予定されていた症例数、介入、観察期間を終えて完了となるわけではありません。有効性や安全性に疑問が生じた場合、予定と大幅に異なる場合、倫理審査委員会の指導があった場合にも研究の終了・中止・中断をせざるを得なくなる場合があります。なお、実際に研究を終了・中止・中断した場合は、速やかに倫理審査委員会や研究機関へ報告しなければなりません。

計画書への記載例

研究を進行している最中に、研究自体の有効性や安全性に疑問が生じた場合、指導教員の指導があった場合などは研究を終了・中止・中断する可能性がある。また、研究を終了・中止・中断した場合は速やかに大学へ報告する。

費用負担と健康被害の保証

費用負担については、研究対象者の出費はゼロになるように研究計画していきます。また、研究対象者に謝礼が送られるかどうかも記載しておきましょう。なお、健康被害があった場合の保証もどのようにするのか記載しておかなければなりません。

計画書への記載例

本研究への参加者には、企業より1,000円の謝礼が送られる。また、健康被害への保証は行わないこととする。(保証がある場合には、治療費用の全額を負担するなどといった記載をします。)

研究者が想定すべき項目で悩んだこと

まず私が悩んだことは、健康被害への保証です。研究に坂道シューズを使用するわけですが、初めての試みだったので安全性がわかりませんでした。もしかすると研究中に靴ずれを起こしたり、つまずいて転倒してケガを負わせたりする危険性が考えられました。

まず坂道シューズを履いて予備実験を行いました。研究をはじめる前に、坂道シューズの安全性を確かめました。しかし、予備実験を行ったとしてもすべてのリスクを把握し、回避できるわけではありません。やはり、研究を行ううえでは、研究対象者にしっかり事前説明(インフォームドコンセント)を行って、同意を得てから研究を進めることが何よりも大切だと思います。

Conclusion

研究者は、研究対象者を守るためにさまざまな想定をしておくことが重要です。ここを疎かにしてしまうと、臨床研究がうまく進まなかったり、研究対象者に害が生じて研究者としての責任を問われたりすることにもつながります。今回お伝えした5つの項目を把握し、できるだけ安全に臨床研究を進めていきましょう。

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